父と京マチ子さんの振袖

京都と所縁の深い女優の京マチ子さんが逝去されました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

ニュースを聞いて思い出した私の父と京マチ子さんのエピソード。と言っても、当時修行中の友禅職人であった父が、ときの大女優さんと面識があるはずもなく、、、

第12回ベネチア国際映画祭にて黒澤明監督作品「羅生門」が金獅子賞を獲った際、ヒロインを演じた京マチ子さんが受賞会場で着用する着物を、父の師匠の工房である「高橋啓」が染める事になり、その製作スタッフの職人の1人として修行時代の父が加わった、という映画の撮影所が沢山あった京都ならではのエピソード。

子どもの頃、父の武勇伝(現陛下がお生まれになった時に初めてお使いになられるお布団地を友禅で染めた話は後日書きます)はさんざん聞かされたけど、昨日京マチ子さんの訃報で思い出したこのエピソード。当時父たちは一体どんな着物を染めたんだろう?という興味もあり、すこし調べてみることにしました。

国際映画祭で日本を代表する大女優がお召しになる着物は、晴れ着中の晴れ着である事は間違いありません。

おそらくそれは晴れ着ゆえに総柄の大作。しかも受賞内定を受けから受賞式までの短期間で染め上げなければならない急品だったと予想。工房全員で一斉に手分けしての挿し友禅だったんだろうけど・・・それってどんな着物だったんだろうか?

往々にこの手の疑問は本人がこの世に居なくなってから思うもの。父は2014年に他界しています。

知りたい!

しかしナイトスクープの探偵さんに手紙を書くのも大層だし、とりあえず手元のスマホでGoogle画像検索してみました。そしてかろうじて見つけたのがこの写真。

低解像度のモノクロ写真だから色は勿論、柄だってほぼわからないのですが想像力で脳内画像分析してみましょう。

手前のエスコート役の紳士のジャケットは、フラッシュで飛んでしまっていますがおそらく白のタキシード。だとすると着物(振袖ですね)の袖も同じような明度なので、おそらく白地でしょうか。

襟から胸への取り方には一寸から二寸くらいの菊が描かれているように見えます。

帯は金でしょうか。帯揚げはボリュームありますし、鹿の子絞りの丸い菊の柄かもしれません。

そして帯の下の部分に目を移してみましょう。上前見頃から左後見頃にかけてかなり大振りなモチーフが描かれています。

その柄の大きさから初見では鳳凰の羽か?と思いましたが、よく観察してみると葉脈がありますので、柄は牡丹?花のように見える部分もあります。このような生命力のある独創性溢れる図案は、現代の保守的な古典系振袖では見ることができません。当時の時代感めっちゃありますね。こんなの大好きです。

さて、ここまでの観察でこれはかなり大胆な図案の振袖なのではないか?との仮説を立てた訳ですが、次にどんな色が挿されていたのか?をモノクロ写真から想像力MAXで分析していく事にしましょう。

配色のセンスは父からきっちり受け継いだと自負もある私が想像するに、上半身の菊?モチーフは黒っぽく写真に写っている事から、赤や臙脂の色が挿されてると推測。
上前見頃の牡丹?の花は濃度が薄いようですからピンク系でしょうか。そして大きな葉の挿し色はおそらくグリーン系。ここでのポイントは、地色が白であること。差し色が濁ってしまうと画面全体が野暮ったく気品がなくなってしまいます。彩度は落とさず濃度を上げる・・・はっきり言って難易度の高い友禅です。いたずらにサビを打たず彩度の高い色を何度も何度も挿し重ねた結果得ることができるコクのあるグリーンの濃淡ではないかと仮定してみます。(愚直にあくまでもきれいな色の挿し重ねで濃度を上げる方法がとられているはず。場合によっては色を定着させるため彩色の途中で一度友禅蒸しをかけているかもしれません。手間は掛かるが艶のある深い色が出せます。これは手描き友禅だからこそ可能な色彩表現でもあります。)

 

ここまで推察したところで
振袖全体を俯瞰して見直して見ると面白いことに気がつきました。

以下に要素をまとめてみると・・・

・ベースは白地っぽい。

・上半身の柄は菊で、胸〜襟〜袖を赤系の濃淡か?

・腰から下の上前見頃〜右後身頃の牡丹?の大きな葉っぱはグリーン系の濃淡と予想。

おおおお!この配色は!
イタリアの国旗たるイタリアントリコロールを微妙に意識したのではないのか!?
(見る人が見れば気がつく微妙な範囲で招かれた会の要素をうっすら入れるという粋さが素晴らしいと感じます。)

また第12回ベネチア国際映画祭の授賞式は9月10日。
この季節は重陽の節句(9月9日)=菊であることから、菊づくしの振袖だったのか、あるいは菊だけだとどうしても躍動感が足りないので上前に東洋的な花のモチーフとして牡丹を配したのか?

製作に関わった父も、京マチ子さんもすでに鬼籍に入り真実はもうわかりませんが、この写真の分析で先人が何を考えどんな工夫をしものづくりに取り組んで来たのかをリアルに感じることができた気がします。

日本を代表する黒澤明作品の金獅子賞授賞式の為のみのに染められたこのトリコロール?振袖も今どこかに保管されているのかなと思うと、一度でいいから実物を見て若かりし頃の父の筆致を感じ、そして、私のこの大胆な分析が正しかったのかを検証してみたい気もします。

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